先に結論から
- 相続税を払った人が、相続した土地・建物などを一定期間内に売ったとき、払った相続税のうち売った財産の分を、譲渡所得の取得費に足せる特例(国税庁 No.3267)
- 条件は3つ:相続や遺贈で財産を取得した、その人に相続税が課税された、相続開始日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売った
- 加算額は、その人の相続税額に、売った財産の相続税評価額の割合をかけて求める。ただし、特例を使わない場合の譲渡益が上限
- 相続税がかかっていない人は使えない。空き家の3,000万円控除とは、同じ家について併用できない(国税庁 No.3306)。有利なほうを選ぶ
相続した実家を売ると、売った値段から、取得費(買った費用の扱い)などを引いた利益(譲渡所得)に、税金がかかります。そこで、払った相続税の一部を取得費に足せるのが、取得費加算の特例です。ただし、相続税が実際にかかった人だけが使えます。国税庁の案内(タックスアンサー No.3267)で確かめました(確認日 2026-11-04、国税庁の記載は令和8年4月1日現在の法令等にもとづく)。
先に、押さえたいことを4つ挙げます。
- 使えるのは、相続税が課税された人。基礎控除以下で相続税がかからなかった人は使えない。
- 売る期限は、相続税の申告期限(10か月)の翌日から3年を経過する日まで。期限を過ぎると使えない。
- 加算できるのは、売った財産の分の相続税。しかも、特例を使わない場合の譲渡益が上限。
- 空き家の3,000万円控除と、同じ家には併用できない。有利なほうを選ぶ。
特例のしくみ
相続または遺贈で取得した土地、建物、株式などを、一定の期間内に売ったとき、その人が払った相続税額のうち、売った財産に対応する分を、譲渡資産の取得費に足すことができます。取得費が増えると、譲渡所得が減り、税金が減ります。
- 対象は、所得税の譲渡所得です。株式等の譲渡による事業所得や雑所得には使えません
- 計算は、売った財産ごとに行います
使える人の条件
次の3つをすべて満たす必要があります。
- 相続または遺贈で、財産を取得した人であること
- その財産を取得した人に、相続税が課税されていること
- 相続開始日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売ったこと
売る期限
相続税の申告と納税は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内です(国税庁 No.4205)。取得費加算の期限は、その申告期限の翌日から3年を経過する日までです。つまり、相続開始から3年10か月ほどが目安です。たとえば、申告期限が2025年11月ごろなら、2028年11月ごろまでです。
この期限は、空き家の3,000万円控除の「相続の開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで」より長いです(3,000万円控除)。3,000万円控除の期限が過ぎても、取得費加算なら使える場合があります。
加算される金額
国税庁の案内では、次のとおりです。
加算額は、その人の相続税額に、売った財産の相続税評価額の割合を掛けて求める。
割る数は、その人の取得財産の価額、相続時精算課税適用財産の価額、暦年課税分の贈与財産の価額の合計です。
- 加算額が、特例を使わない場合の譲渡益を超えるときは、その譲渡益に相当する額が上限
- 令和6年(2024年)1月1日以後の贈与の取り扱いには、注意書きがある(精算課税の基礎控除や、暦年課税の100万円の控除)。詳細は国税庁の案内で確かめる
計算のイメージ(仮の数字)
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| その人が払った相続税額 | 600万円 |
| その人の取得財産などの価額の合計 | 1億円 |
| 売った実家の相続税評価額 | 2,000万円 |
| 加算額(600万円 × 2,000万円 ÷ 1億円) | 120万円 |
この120万円が、取得費に足されます。実際の計算は、国税庁の「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」で行います。
3,000万円控除との関係
空き家の3,000万円控除(相続した空き家を売ったとき)の要件の中に、国税庁は次の条件を挙げています(No.3306)。
同じ資産について、取得費の特例や収用等の特別控除など他の特例を受けていないこと。
つまり、同じ実家について、3,000万円控除と取得費加算は併用できません。どちらが有利かは、次で変わります。
| 状況 | 向いている特例 |
|---|---|
| 昭和56年5月31日以前の建築で、条件を満たす。相続税はかからなかった(または少ない) | 3,000万円控除(相続税がかかっていないと、取得費加算は使えない) |
| 相続税を多く払った。条件を満たす古い家で、譲渡益が大きい | 控除の額が大きい3,000万円控除を検討。ただし、控除後の利益と、加算額を比べる |
| 昭和56年6月以降の建築、または3,000万円控除の期限(相続から3年後の年末)を過ぎた | 取得費加算(期限は申告期限の翌日から3年) |
| 相続税がかかっていない | 取得費加算は使えない |
どちらが得かは、売った値段、取得費、相続税額で変わります。売る前に、税理士か税務署で、両方を計算して比べてもらうのが確実です。
手続きと必要書類
売った翌年に、確定申告をします(提出先は所轄の税務署)。次の書類をつけます。
- 相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書(この明細書で加算額を計算できます)
- 譲渡所得の内訳書(土地・建物用)、または株式等の場合は、それに応じた明細書
売る前に確かめること
- 自分に相続税が課税されたか:相続税の申告書や、納税の記録で確かめる
- 売る期限:相続税の申告期限(死亡を知った日の翌日から10か月)の翌日から3年
- 売る家が3,000万円控除の対象か:昭和56年5月31日以前の建築か(3,000万円控除)
- 名義:売るには、相続登記が済んでいる必要がある
- ほかの特例:貸す・住むなどに使うと、3,000万円控除は使えなくなる。取得費加算は、譲渡所得の特例なので、その使い方とは別に考える
よく聞かれること
- 相続税を払っていなくても、取得費加算は使えますか?
- 使えません。その財産を取得した人に、相続税が課税されていることが条件です。
- 相続した実家をいつまでに売れば、取得費加算が使えますか?
- 相続開始日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までです。相続税の申告期限は、死亡を知った日の翌日から10か月以内なので、相続開始から3年10か月ほどが目安です。
- 3,000万円控除と取得費加算を、同じ家で両方使えますか?
- 使えません。3,000万円控除の条件に、同じ資産について取得費の特例などを受けていないことが入っています(国税庁 No.3306)。どちらか有利なほうを選びます。
- 加算できる金額に上限はありますか?
- あります。特例を使わない場合の譲渡益を超えることはできません。譲渡益が出ていなければ、加算の意味がありません。
- 申告は自分でできますか?
- 自分で、税務署か国税庁の確定申告書等作成コーナーで申告できます。相続税の計算が関わるため、税理士に頼む人も多いです。
出典
確認日:2026-11-04
※個別の判断は、税務署や税理士に確かめてください。